【レビュー】洋書 Le Bureau des Manuscrits par Antoine Laurain「出版企画室」(未邦訳)作/アントワーヌ・ローラン(『ミッテランの帽子』『赤いモレスキンの女』の作者)
あらすじ
ヴィオレーヌ・ルパージュ(44歳)はパリの敏腕編集長。スティーブン・キングとのミーティングを終えフランスへ戻る途中に飛行機事故に巻き込まれて昏睡状態に陥る。
パリの出版社には作家の卵が送りつけてくる原稿が毎日何十通と届く。出版企画室では届いた原稿を数人の担当者が読んで出版すべきかどうかを検討する。
ルパージュ女史不在の折、『砂糖細工の花』というタイトルの小説が届き担当者は全員一致で出版の話が一気に進む。
契約が郵送のやりとりだけで終わり作者の正体が分からない。
ヴィオレーヌは昏睡状態から目覚めて職場に復帰する。『砂糖細工の花』の作者は依然分からない。謎は深まるばかり・・・。
小説は出版されるとあっという間にベストセラーになった。そしてゴンクール賞を受賞する可能性まで出てきた。依然、作者が誰か分からない。
ルーアン郊外の森で『砂糖細工の花』で描かれている殺人が現実に起きた。担当の刑事は何らかの形でヴィオレーヌの過去と関わりがあると睨む。
小説の殺人が現実になる、そんなことがありえるのか?事件の真相とヴィオレーヌの過去にどういうつながりが?謎は深まっていく・・。
魅力的なテーマ
フィクションと現実
小説で描かれた犯罪が現実に起こる、こんなことがあり得るのか。フィクションと現実の境は?「夢か現(うつつ)か」、「狂気か正気か」の終わりのない疑問の輪にはまってしまいそうですが、ラストで解決するのでご心配なく!
アイデンティティの探究
職場に復帰したヴィオレーヌは机の引き出しにタバコ・ライター・灰皿を見つけるがタバコを吸った記憶はない。ワードローブには買った記憶のない服がたくさんかかっている・・・。
「私はいったい誰?」鏡に映った自身に問いかける、正気と狂気の境いがぼんやりしはじめる。疑問が渦巻いて耐えられなくなったとき、ストーリーは一気にラストへ・・・。
フランス文学へのオマージュ
ヴィオレーヌは文学好きで、売れる本を見分ける才能に恵まれた編集長。彼女が職場復帰すると久しぶりのヒット作をめぐって疑問が絶えない。
そんな彼女を励ますように大好きな作家たちが心の中で現れるシーンが登場します。
マルセル・プルースト、ジョルジュ・ペレック、パトリック・モディアーノ、ミッシェル・ウェルベック、ヴァージニア・ウルフ・・。
作者が得意とする巧みな演出で心温まりシーンが印象に残ります。
作者と読者のランデブー?
1ページ目の1行目。主人公のヴィオレーヌが昏睡状態から目覚めるシーン。
ここにマルセル・プルースト、パトリック・モディアノ、ミッシェル・ウエルベック、バージニア・ウルフなどの作家たちが病室に座っているシーンが登場。
作者が私たち読者と憧れの作家たちを会わせてくれたような、思わないプレゼントをもらったような嬉しい気分になります!
作品のタッチ
ジョルジュ・シムノンの「ロマン・ノワール」のような雰囲気とこの作者らしい明るい雰囲気が交互にストーリーを紡ぐ魅力的な作品です。
2作目の『タバコと殺意』で刑事モノへの愛着が感じられましたが、ここで本格的に味わえます。
最後はもちろんアントワーヌ・ローラン「マジック」で安心して本を閉じることができます。
評価
・「A Parisian Perfection」Her Royal Highness the Duchess of Cornwall.
→「完璧なパリの傑作。」としてコーンウォール公爵夫人が4月に発表したお
すすめ小説に選ばれました。
翻訳
英語版
「The Readers’ Room」として出版
翻訳はGallic BooksのJane Aitken,Emily Boyce,Polly Mackintosh)
ここで購入しました
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作者アントワーヌ・ローランのプロフィール
作者アントワーヌ・ローランのほかの作品
最後に
本作品はアントワーヌ・ローランの待望の最新作。
前作の「ヴィンテージ1954」では」SFさながらのメインテーマに人間ドラマが絡む、ちょっとコミカルで心あたたまるお話でした。
今回は本格的な「ロマン・ノワール」にヒューマンドラマが絡んだストーリー。感動的なラストが印象的です。
邦訳がまだですが、オリジナルのフランス語版、英語版をお楽しみいただければと思ってご紹介しました。
お楽しみいただけましたか?
次回をお楽しみに! A bientȏt!
和泉 涼
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