【レビュー】洋書 「ラプソディ・フランセーズ」(未邦訳) 作/アントワーヌ・ローラン(ミッテランの帽子』『赤いモレスキンの女』の作者)

2021年4月20日

あらすじ

1983年に大手レコード会社のポリドールが送った手紙が33年遅れでアラン・マスリエのもとに届いた。

アランは1980年代のはじめに「ザ・ホログラム」というバンドのメンバーだった。当時はビートルズとその流れを組む音楽が終盤を迎え、時代はPOPSとテクノミュージックをベースにした新しい音楽を待っていた。

彼らは夢に燃えて自信作の曲を録音したカセットを大手レコード会社ポリドールへ送った。

レコード会社から連絡はこなかった。

夢がみごとに敗れてバンドは解散。メンバーもそれぞれの人生を歩んだ・・。

手紙にはポリドールでカセットの曲を気に入ったのでぜひお会いしたい、という内容だった。

33年前に届いていたら、幻の曲「We are Made the Same Stuff Dreams are Made of」が世界的にヒットしてデペシュ・モードやユーリズミックと並ぶスターになっていたのか?

アランはめまいがして胸が締めつけられた。急に昔の仲間が懐かしくなって彼らを訪ねてみようと心に決めた・・・。

テーマ

文庫版はJ’ai Luから

人生の分岐点

あの時手紙が届いていたら全く人生になっていたかも知れない。

「もしもあのとき違う選択をしていたら、どんな人生になっただろうか?」アントワーヌ・ローランが好んで取り上げるテーマの一つです。

みなさんも考えたことがありませんか。

愛をどう描く?

薄いガラスのようにもろくて切な、この世で最も美しいものーそれは愛。

愛する気持ちを愛する人にどう伝えればいいのか?

詩の世界でも昔から巨匠が挑んできた普遍のテーマ。ピエール・ド・ロンサールからボードレール、エルアール、マラルメが挑んだものの、成功したものはいないと思う。

ようやく近づいたのが1970年代に活躍したクリストフだと。曲名は「 Les Mots Bleus(蒼いことば)」。

この曲、iTunesで見つけてました。わずか3分45秒の短い、クリスタルのようにキラキラ輝く美しい曲です。ぜひ聞いてみてください。

シェイクスピアのことば

”We are Made the Same Stuff Dreams are Made of”

オレたちは夢と同じ素材でできている!

テンペストに出てくることばです。

夢と同じ素材できている。オレたちは夢そのものでは?

作者が読者にこう問いかけているのでしょうか?

作品の中でこのことばを中心に歌詞が作られメロディをつけた曲をレコード会社へ送った、という設定で話が進みます。

作品のタッチ

主人公がかつての仲間を訪ねるという「心の旅」に出るが途中、仲間たちの人生の軌跡を見つめながら彼もまた成長していく。

3作目の「ノスタルジーの交差点」の構造を使いつつメインテーマに文学・骨董商の世界・音楽・近代美術などのモチーフを上手に織り交ぜ、ストーリーもまたドラマチックな展開をする、作者らしい笑い・涙・感動ありの力作です。

翻訳

英語版

2016年に「French Rhapsody」のタイトルで出版。翻訳はEmily BoyceとJane Eitken。

紙書籍、電子書籍があります。

イタリア語版

2017年に「Rapsodia Francese」のタイトルで出版

ドイツ語版

2017年に「Melodie meines Lebens」のタイトルで出版。Audible版もあります。

作者アントワーヌ・ローランのプロフィール

こちらをご覧ください。 

作者アントワーヌ・ローランのほかの作品

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ご購入方法 

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まとめ

 『ミッテランの帽子』、『赤いモレスキンの女」で国際的にブレーク後に出した作品です。メインテーマのほか、愛、詩、文学、親子の絆、ワインなどのモチーフが主題を美しく盛りたてる作品。思いもよらないラストが大きな感動をもたらし、心を元気にしてくれます。邦訳がないのが残念です。英語版でお楽しみいただければと思ってご紹介しました。

では次回をお楽しみに!

和泉 涼