【レビュー】洋書 Et Mon Coeur se Serra par Antoine Laurain&Le Sonneur 「心が泣いた・・」(未邦訳)著/アントワーヌ・ローラン&ル・ソナール

2021年4月20日

こんにちは。今回はフランスで話題のこの作品をご紹介します。『赤いモレスキンの女』のアントワーヌ・ローランの最新作です。

今回はアーティストのル・ソナールさんと愛をテーマにした「文章とイラストのコラボ作品」を出版されました。

フランスをはじめヨーロッパでは2月3日かあ好評発売中です。海を超えて荷物を発送してくれるAmazonさんのおかげでIzumiも購入しました。中身は・・・素晴らしい作品です。

あらすじ

愛する人が去っていった。彼女は二度と戻ってこない。実は少し前から彼女の心はここにあらずだったけど、僕は認めるのが怖かったんだ。

彼女は去ってしまった。今度こそ本当に。

僕はどうしようもないくらいうろたえている。ジタバタしている。昼も苦しい。夜も苦しい。もうダメかも知れない。一体いつまで続くのだろう?

この世の終わりが来ても立ち直れなかったらどうしたらいい・・・?

現代のラブ・ストーリー

愛をどう描くか。これはずっと昔からの普遍のテーマ。時代ごとにいろいろなアーティストが挑戦してきました。

小説家は文章を、詩人は散文を、唄い手は歌詞とメロディを使って挑戦しその度に世にすばらしい名作をたくさん残してきました。

ほんの一部をご紹介しますと、20世紀の悲劇の詩人アンドレ・ブルトンも、19世紀の詩人ステファーヌ・マラルメも、20世紀の歌手・作家・アーティストとして知られたセルジュ・ゲンスブールもそれぞれに貢献してきました。

彼らは普遍のテーマに挑むたびに光り輝く名作をこの世に永遠に残してくれたのです。

21世紀を迎えた今日、フランスの小説家とグラフィック作家がこのテーマに挑みました。

日本で『赤いモレスキンの女』がヒット中の小説家アントワーヌ・ローランと東京のギャラリーで個展を開催中のアーティスト、ル・ソナールの二人です。

彼らが創りあげたのは愛をテーマにした、文章とイラストのコラボによる美しい作品です。

一般的な小説とは違って、イラストが文章を補うのではありません。

アントワーヌ・ローランが書いたオリジナルの文章28点とル・ソナール118点のイラストがお互いに共鳴しながら一つの物語を語っています。

中を覗いてみると文章が傾いていたり、タイトルがひっくり返っていたりと、文章自体がユニークな形カタチをしています。

そして赤と黒のイラストは白いページを切り込むようにランダムに並べられています。

愛を失った主人公はハシゴを手に心の旅に出ました。ハシゴだけで彼を待ち受ける試練を乗り越えることができるのでしょうか。 

モチーフ

『神曲』のダンテの愛

ルネッサンス期に活躍したダンテが生涯でただ一人の女性を愛しました。二人の出会いはある昼下がりにすれ違っただけ。

ダンテは一瞬見たその彼女を生涯愛し続け、彼女に詩をいくつも捧げました。こうしてその女性も歴史に名を残しましたーベアトリーチェ。

20世紀の悲劇の詩人アラン・フルニエの愛

19世紀後半に生まれたアラン・フルニエも生涯ただ一人の女性を愛した詩人。彼は18歳の春に通りですれ違ったイヴォンヌ・トゥッサンに恋をしました。

フルニエは後を追いかけて彼女とことばを交わしますが、彼女にはすでに結婚を約束した人がいました。彼女は友だちになりたいと言ってくれました。

彼は彼女と生涯を過ごしたかったのです。

8年後にフルニエは名作を発表したのちに第1次世界大戦の戦線へ。彼はその殺戮の中で命を落としました。遺体は連隊ごと共同墓地に投げ込まれ、ようやく見つかったのは1991年でした。

作品のコンセプト

ル・ソナールが新作のイラストを書き上げた頃、友人のアントワーヌ・ローランと「このイラストに文章をつけてみようか?」という発想が生まれました。

そこからこの作品が生まれたのです。

文章はイラストを説明するのではなく、文章はイラストが共鳴するかのように書かれました。だからイラストが物語の続きを語ることもあるのです。

またル・ソナールの作品を見ていただけるとお分かりいただけますが、白い紙の上にペンで描くだけでなく、描くことで切り取った空間の反対の空間にも注目します。そのコントラストが作品の人物の複雑な心境と重なり味を出します。

詳しくはこちらの記事:作者インタビュー(完全訳)へ

作者のプロフィール

アントワーヌ・ローラン Antoine Laurain

2007年に小説家デビュー。2012年に発表した『ミッテランの帽子』は世界的にヒットしました。また2014年の『赤いモレスキンの女』は映画化が進行中だとか。作品は今回で9作目になります。

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ル・ソナール Le Sonneur

普通の街角に赤い呼び鈴を貼り付けたり、ドアの下にラブレターを挟んだりと通りの家の玄関と連携する形でアート活動を展開するアーティスト。日本でも度々個展を開催しています。

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翻訳

英語版がイギリスのGallic Booksから2022年に発売予定。Amazon.jpではすでに予約受付が始まっています。 

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まとめ

いかがでしたか。

この詩集は『僕の失恋日記』ともいえる素朴なもの。そして嘘や大げさな言い回しがない表現も印象的でした。

愛する人に去られた胸の痛みをジュピターの稲妻を受けたかのように・・・などと壮大に表現することもできたでしょう。でもそうはせずに、等身大の素朴なことばで綴ることを選んだことがこの作品にスケール感を出しているのはいうまでもありません。

そうして「僕」の失恋の話は、ほかの誰かの失恋のお話でもあり、みんなに当てはまる失恋のお話になることができたのです。

初めてこの本のことを知ったときに、セルジュ・ゲンズブールの歌が頭をよぎりました。「〜の別れ」みたいにカッコいい表現ではなくて、『今日出ていくよと伝えにきた』という素朴なことばがタイトルにも歌詞にもそのまま使われていました。

素朴なことばほど心に響くものですね。

同様に『ミッテランの帽子』、『赤いモレスキンの女』の作者のアントワーヌ・ローランと赤と黒と白のイラストで知られるル・ソナールが創った作品についてみなさんとシェアできてこんなに嬉しいことはありません。

日本で邦訳が早く出ることをお祈りしています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回をお楽しみに! A bientôt!!

和泉 涼