【レビュー】”Chien de Printemps” par Patrick Modiano「春の犬」作/パトリック・モディアノ(スイユ出版1993年)未邦訳

2021年4月20日

ストーリー

主人公が写真家のフランシス・ヤンセンと知り合ったのは1964年の春。戦場カメラマンのロバート・キャパが他界して10年。ヤンセンはキャパの後輩だった。主人公は19歳の春を迎え将来を模索していた・・・。

ヤンセンはパリで撮った写真をアルバムにしまうことなく、スーツケースに無造作に投げ込んでいた。主人公は写真の目録作りを申し出る・・・。

無数の写真を時系列に並べる作業をするうちにパリでのヤンセンの軌跡が浮かび上がる・・・。 

作者プロフィール

こちらをご覧ください

テーマ

人・時と場所

1964年春。19歳の主人公は作者自身とオーバーラップするナイーブな青年。彼は偶然知り合ったカメラマンのヤンセンの写真を整理するうちに、自身の人生の意味を見出し、数年後に作家デビューを果たします。

本作品では年齢・場所・時間がささいなことをきっかけに甦るさまが繰り返し描かれます。

モチーフ

ロバート・キャパ (1913−54年)〜激動の時代を記録した写真の巨匠〜

↑上の写真 左にゲルダ・タロー、右がロバート・キャパ

ユダヤ系ハンガリー人の写真家。ナチス台頭の初期にドイツからフランスへ逃れ、パートナーのゲルダ・タローと戦争の惨劇を伝える戦場カメラマンに。

最初は本名で活動しましたが反ユダヤの風潮の強い時代にあり注目されませんでした。アメリカ人カメラマン、ロバート・キャパと改名してようやく認められるようになりました。女流カメラマンのゲルダ・タローと組んで支那事変やスペイン戦争の報道で世界に名を馳せました。

1954年ベトナム近郊で地雷を踏んで負ったケガが元で40歳の若さで他界しました。

ロバート・キャパの名は恋人だったパートナーのゲルダ・タローが考えたアーティスト名。『二十日ネズミと人間』でノーベル文学賞を受賞したユダヤ系アメリカ人作家スタインベックやアーネスト・ヘミングウェイの友人でした。ヘミングウェイの『誰がために鐘は鳴る』はキャパの写真集からのインスピレーションによって執筆したというエピソードはあまりにも有名。

キャパの恋人・パートナーのゲルダ・ターロは1937年にスペイン戦争報道中に戦車に轢かれて死亡。史上初の戦場で殉職した女性カメラマンでした。

ロバート・キャパの作品はスペイン戦争で被弾して倒れる戦士の姿やパリ開放後に髪を剃り落とされた女性の姿など、人間であるが故の狂気が起こす惨状を捉えたカメラマンとして評価されています。

この作品では19歳の若き主人公と奇妙な友情を築いたカメラマンのフランシス・ヤンセンの友人/師匠の設定で登場します。

まとめ

自身が誰でどこへ向かって歩いているのか、魂が探してさまよう様が美しいことばで綴られた珠玉の作品。日本語もとらえ難くて美しいものを描く語彙に恵まれたことば。きっとふさわしい翻訳がつくことでしょう。

未邦訳作品の紹介で申し訳ないのですが、機会があったらぜひ触れていただきたい作品なのでご紹介させていただきました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回をお楽しみに! A bientôt!!

和泉 涼