【レビュー】洋書 Se le dire enfin par Agnès Ledig(未邦訳)
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こんにちは和泉 涼です。
今日はフランスの女性の作家をご紹介します。この作家さんの作品の7作目の、最新作です。人生を根本的やり直したい ✖️ ブルターニュの魔法の森が起こす奇跡の物語です。
タイトル
”Se le Dire Enfin” Agnès Ledig
「やっと言える・・・」著/アニエス・レディーグ(未邦訳)
フランスのフラマリオン社出版です
ストーリー
エドゥアールは妻と旅行からパリへ戻る途中に風変わりな初老の女性スーザンに出会います。スーザンはイギリス人の作家で、ブルターニュ地方のブロセリアンドの森へ行くところだといいます。突然エドゥアールはブロセリアンドの森へ行ってみたくなります。
ブロセリアンドはアーサー王の伝説に登場する魔法の森。エドゥアールは森の不思議な力に癒されて人生の疲れを洗い流します。そして木々のざわめきの中に、少年の頃の自分の姿を見て・・・。
テーマ
30年も経ってから人生の再出発は可能か?50代に入る頃にふと考えてしまうテーマかもしれません。人生をやり直すのに遅すぎるのでしょうか。
エドゥアールは突然初恋の女性エリーズから手紙を受け取り動揺します。15歳の春に知った初恋の甘い記憶、彼女の両親の猛反対に引き裂かれた辛い記憶。胸の奥に眠っていた様々な記憶に魂を揺さぶられ、神秘的なブロセリアンドの森を訪れます。
そこで活力を取り戻したエドゥアールは人生の本当の意味に気づき、人生を取り戻そうと決心するのですが・・・。
神秘的なブロセリアンドの森に見守られて二人の物語はどのように展開するのでしょうか?
モチーフ
神秘の森
ブロセリアンドの森はアーサー王伝説にまつわる想像上の森ですが。魔女のモーガンとビビアンの住処だったとされています。円卓の騎士ランスロットが討伐したとされています。
妻・母・女の生き方
本来の人生を探す主人公エドゥアールの周りに様々な人生を抱えた女性たちが登場します。スーザンは夫と死別してから執筆活動に専念しているイギリス人の作家。ブロセリアンドの森で民宿を営むガエルは失語症のティーンエイジャーの息子を一人で育てているシングルマザー。長年夫に粗末に扱われてきた怒りを胸に溜めているクリスティーヌは、家出した娘を探すなか憲兵隊員になった初恋の相手と再会。
今もなお根強く残る女性蔑視の目線。一人ひとりの物語がをゆっくりと語られます。それは、黙ってひとりで耐え忍んでいる全ての女性への暖かいエールなのです。
オーディオブック
朗読:ピエール・ロシュフォール(Pierre Rochefort)
俳優ピエール・ロシュフォールによるオーディオ・ブックもお楽しみいただけます。
出版
2020年 フラマリオン社
作者のプロフィール
アニエス・レディーグ Agnès Ledig(1972年ー現在)
ストラスブール生まれ。幼少の頃から読書を楽しむも農学系大学に進学。その後「人の役に立つ仕事」助産師の仕事を天職として、ストラスブールの助産師養成学校を経て、2015年までアルザスで助産師を務めていた。
「人の役に立つ仕事」はルディグの人生のテーマとなる。
2005年家族の不幸をきっかけに執筆をはじめた。デビュー作「Marie d’en Haut」は15,000部以上のベストセラーになった。この作品で2011年に賞を受賞。その後大手のアルバン・ミシェル(Albin Michel)社へ移籍して作品を次々と発表。2020年にフラマリオン社に移籍し、本作品を発表。作品は小説のほか子ども向けのお話も多数。
現在フランスで最も注目される女流作家のひとり。↓
作者のほかの作品
- ”Marie d’en haut”「天上のマリー」(2011年)Editions Les Nouveaus Auteurs
- ”Juste avant le bonheur” 「幸せになる直前に」(2013年)Albin Michel
- ”Pars Avec Lui” 「彼と一緒に」 (2014年)Albin Michel
- ”On regrettera Plus Tard”「後悔は後でいい」(2016年)Albin Michel
- ”De tes Nouvelles” 「あなたの便り」(2017年)
- ”Dans le murmure des feuilles qui dansent”「風に舞う木の葉のささやき」(2018年)
- ”Se le dire enfin ”「やっと言える・・・」(2020年)Flammarion
ご購入
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最後に
今回ご紹介したこの作品は魂の再生と新しい出発をテーマにした、前向きで生命力に溢れる作品です。主人公が神秘的な力を持つ森の活力に癒されて次第に心の元気を取り戻して、生活に疲れて方を丸めて歩くのではなく、背筋を伸ばして堂々と進む姿は雄々しく読者も元気をもらえるところでした。
一方で、この小説には登場人物がリアルに苦しむシーンがいくつか登場します。同性愛の娘を理解できない父親が仲間に娘を女性として傷つけさせるシーンや15歳のエリーズが堕胎の措置を受けさせられるシーンは現実味がありすぎて読み進めるのが辛いと感じました。
私の好みとしては、フィクションはフィクションなので、リアルすぎない方が好きだからかも知れません。
でも逆にそんな「人に言えないこと」にも真っ向からふれることによって「やっと言える」ように変化していく、という点がこの物語が読み手の琴線に触れる内容だと評価されているゆえんなのでしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回をお楽しみに! A bientôt!!
和泉 涼
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