レビュー『カラビン銃の妖精』作者:ダニエル・ペナック

2021年4月20日

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ストーリー

パリ20区のベルヴィルで買い物かごを持ったおばあちゃんが若い刑事を撃ち殺した。老女はなぜ若い刑事を殺したのか?そもそもなぜ老女はカラビン銃を持っていたのか?警官殺しの犯人逮捕に向けて警察は躍起になって捜査を始める。

同じベルヴィルの住人であり8人家族の大黒柱のバンジャマン・マロセーヌは恋人のジュリーに見知らぬ老人を居候させて欲しいと頼まれる。老人は謎の美しい看護師にクスリをもらってラリっていて死にかけていた。

何者かがある目的のために老人たちをクスリ漬けにしている。新聞記者のジュリーはその真相を追っていた。それから数週間後、ジュリーに似た女が川に投げ込まれるが奇跡的に一命を取りとめる・・・。

二つの事件はどう絡んでいるのか。刑事殺しの容疑をかけられたマロセーヌはどうなってしまうのか・・・。

テーマ

・兄弟愛、普遍の愛、全能の愛など、愛のテーマは種類も豊富に登場します。

・究極の隣人愛。ベルヴィルは移民の多い街。マロセーヌ一家を囲む友達もいろいろ。肌の色も信じている神様の名前も違います。でも同じ街に住んでいるのが縁で血の通った兄弟以上の友情で結ばれているのです。

モチーフ

人物設定や表現がハードボイルド小説らしくないですが、これはれっきとした推理小説。ダニエル・ペナックの大人気シリーズです。

シリーズ2冊目のこの作品は、おばあさんが買い物かごからカラビン銃を出して若い刑事を射殺する、という衝撃的なシーンから始まります。

ベルヴィルに潜入捜査中の謎の刑事、愛するジュリーの失踪、老人たちをクスリ漬けにする一味。古い銃の出どころは?・・・。いろいろなテーマが交錯し最後まで目が離せません。

まとめ

この小説を読み終わってふと「仕事」について考えました。

この小説には老人がたくさん登場します。ヴェルダンは両大戦を経験した老人。ストジルはユーゴスラビア時代に最初はドイツ人、後からロシア人、最終的に名前が違うだけで人が人を殺しているだけだと気づいて今パリで余生を送っている老人。リソンは以前バンジャマン・マロセーヌが務めていたデパートで思想的に問題ありの書籍コーナーの担当者でした。

激動の時代を生き抜いたツワモノだったおじいさんたちは今こそ社会に養ってもらってすっかり無害になったようですが、今度は冷酷な権力を握る目に見えない敵に食い物にされていました。

面白おかしい語り口の中にすごい社会問題を取り上げたなと感心しました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回をお楽しみに! A bientôt!

和泉 涼