【洋書レビュー】幸せを運ぶクロワッサンの魔法のレシピ  著/カミーユ・アンドレア 

2021年6月11日

こんにちは。和泉 涼です。今日はフランスのちょっと変わった話題をご紹介します。

4月22日にクロワッサンをモチーフにした小説が発表されました。

実は作者の「カミーユ・アンドレア」は実はフランスの大物作家の偽名らしいのです。しかもその大物作家が誰なのか、読者はもちろん編集者も含め本当に誰も知らないのです。

カミーユ・アンドレアとしての第1作目は ”Le Sourire Contagieur des Croissants au Beurre"。「 クロワッサンの魔法の笑顔」でしょうか。

この4月22日に大手出版社のプロン社(PLON)から出ていて、早くも話題をよんでいます。

あらすじ

フランス人パン職人のピエール・ブランジェ(44歳)は秘伝のクロワッサンのレシピと野望を手にアメリカへ渡り

冷凍クロワッサンで大成功したビジネスマン。10年後のいまや全米の長者番付に乗るほどの大富豪になりました。

直営のパン屋さんにはマドンナをはじめ有名人や女優たちが出入りし、

美人敏腕弁護士ケイトのハートを射止めて結婚、そして玉のような男の子も授かってパパに、

自社ビルの最上階のオフィスからマンハッタンを見下ろし、自宅マンションからはセントラルパークを一望する、

夢の暮らしを手に入れました。

ある朝、ピエールは歩道でホットドッグの屋台を引くメキシコ人の老人と出会います。

老人は一杯百万ドルのコーヒーを飲まないかと尋ねます。好奇心をくすぐられたピエールは飲んでみみることに。一杯が百万ドルもの価値のあるコーヒーなら買収してクロワッサンとセットで売れば事業をさらに大きくできる、そう思ったのです。

「うまい!こんなうまいコーヒーは飲んだことがない!」

老人のコーヒーをひとくち飲んだピエールはこれまでに体験したことのない美味しさに目を見はります。口の中でとろけるような味、豊かな香り・・・。まさしく極上のコーヒーです。

ピエールは老人に魔法のようなコーヒー豆がどこから来たのか尋ねると老人は次の日に教えてやると言います。こうしてホットドッグ売りの歯のない老人と奇妙なやりとりをするうちにピエールにも自分の本当の姿が見えるようになります。

それはマイカーから降りて自社ビルの入り口にを通るまでのわずかな距離さえ携帯の画面をにらみながら歩き、社員とも誰とも挨拶すらしないビジネスマン。息子を保育園へ送って行ったこともない父親。妻とまともな会話すらしていない夫。お金と成功だけが友達のさみしい男の姿でした。

お金と成功を手に入れたのか?それともお金と成功に魂を売ったのか?

本当のシワセトは何か?ピエールの心の旅が始まります。

Izumiの感想

これまで哲学の世界のやりとりとか、シンプルな生活のススメだとか、夜行列車に乗ってスイスからリスボンへ旅をしながらこれからの自分の人生を見出す旅の物語が、その時どきに話題になってきました。中には映画化された作品もあります。

でもどこか「特別な主人公に起こるステキな旅」という印象が強かったと思います。

この作品では主人公のピエールにスポットライトが当たっていますが、彼の周囲の人も幸せのレシピにふれて人生が変わる様子が描かれています。こうして昼間はピエールのビルの清掃業者として働き夜学で看護師の勉強をしている女学生は幸せのレシピに関するメモを見つけることで新たなギャリアを見つけることができますし、また別の自殺をしようとしていた若い女性もこのレシピとの出会いから運命の恋に出会うことができます。

成功したビジネスマンだけではない。

人生の階段を駆け上がる途中でつまずいてしまった若い人やホットドッグ売りの老人の人生さえも変われると説いている点がとても気に入りました。

近い将来日本語に翻訳されみなさんのお手元に届くことを願っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

次回をお楽しみ。

和泉 涼